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研究テーマ その1 糖尿病による筋萎縮を予防するためには? バイオイメージング研究
糖尿病の予防やその進行を抑制するためには,骨格筋の糖代謝能を正常に保つことが重要です.それには糖尿病の進行とともに併発する筋萎縮を抑制し,筋量を確保することが必要となります.本研究は糖尿病状態にある骨格筋において,機械的刺激(メカノストレス)に対する筋線維のカルシウムイオン動態に着目し,生体内(in vivo)バイオイメージングによる細胞レベルでのメカノストレス応答性を解明すること,さらに,それらの知見に基づいた糖尿病筋萎縮に対する新しいトレーニング理論を構築することを目標としています.
カルシウムイオンに着目する理由は?:カルシウムイオンはタンパク質分解と合成の両方に深く関与することが知られています.したがって,筋収縮などのメカニカルストレスに対する細胞構造や機能,そして,適応能力を理解するためには,カルシウムイオンの動態観察が重要なポイントとなるのです.
メカノストレスに対して,細胞内のカルシウムイオンが,いつ? どこから? どの場所に? どの位? いつまで? 流入するのかについては不明の点が多く残されています.これらの統合的な情報は生体内ホメオスタシスが維持された状態で評価することが必要となってきます.
本研究室では,細胞内イオンを生きた動物の生体内で観察することに成功しました.現在,糖尿病におけるカルシウムイオンの振る舞いを解明しています.
そこで解ってきたことは?
メカニカルストレスによって,カルシウムイオンは細胞膜のイオンチャネルを介して細胞外から細胞内に流入することが明らかになりました.そのチャネルを薬理的に阻害すると,流入を押さえることができるのです.また,この流入には性差があり,メスの動物(ラット)では,この流入量がオスよりも少ないのです.筋損傷は男性が女性よりも起こしやすいことが知られています.カルシウムイオンと筋損傷は密接な関係があり,カルシウムの流入量の違いが筋損傷の性差を生じる原因になっていることが考えられます.また,糖尿病状態では,細胞質内にカルシウムイオンが留まりやすいことも解ってきました.糖尿病による筋萎縮は,カルシウムイオンの制御が上手く働かないことが関係していると予想しています.その機構の解明に取り組んでいるところです.
これらの結果は,以下の論文で詳しく紹介しています.
Eshima et al. Am J Physiol 305,R610-618,2013
Sonobe et al. Am J Physiol 299,R1006-1012,2009
Sonobe et al. Am J Physiol 294,R1329-1337,2008
研究テーマ その2 微小循環動態の機構解明
マラソン=有酸素運動!
100m走=無酸素運動!
これは正しいでしょうか? 答えはNOです.
無酸素性運動は,酸素を使わないシステムでエネルギーを作り出している(ATPを産生)と考えがちです.しかしながら,実際の運動では筋肉の収縮と同時に酸素を利用したエネルギー産生のシステムが働き始めます.どんなタイプの運動でも酸素を使わないということはありません.
一方で,生体は酸素を使わなくてもエネルギーを産生できるシステムを持っています.このシステムの特徴は,短時間であれば多くのエネルギーを産生できる点です.したがって,100m走は無酸素性運動と教科書的に説明されることが多いのです.実際には,酸素を使ったシステムと酸素を使わないシステムが筋収縮と同時に働き始めます.短時間の高強度運動は,無酸素性エネルギー供給の割合が高いということで,酸素を使わないということではありません.
我々の研究室では,酸素供給と消費バランスの生体システムを研究しています.これまでに,AMPによって活性化されるAMPキナーゼ(AMPK)が,細胞のエネルギー恒常性(エネルギー源のATPを細胞内で一定に保つ働き)に加えて,酸素の供給と消費のバランスに寄与することを明らかにしました.
関連論文:Yutaka Kano, David C. Poole, Mizuki Sudo, Toshiro Hirachi, Shinji Miura and Osamu Ezaki. Control of microvascular PO2 kinetics following onset of muscle contractions: Role for AMPK. Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol. 2011 Nov;301(5):R1350-7. doi: 10.1152/ajpregu.00294.2011. Epub 2011 Aug 17.PMID: 21849631
Peroxisome proliferator-activated receptor gamma coactivator 1-alpha (PGC-1α)はミトコンドリアや毛細血管の発達を促す遺伝子を調節する因子です.PGC-1αを過剰に発現したマウスでは,筋肉の持久力が大幅にアップします.この特殊なマウスを用いて,この要因を調べたところ,ミトコンドリアによる酸素利用の能力が増加した結果であることを明らかにしました.ミトコンドリアの酸素利用能力が持久力を決定する因子であることを示しています.
関係論文:Yutaka Kano, Shinji Miura, Hiroaki Eshima, Osamu Ezaki and David C. Poole. The effects of PGC-1α on control of microvascular PO2 kinetics following onset of muscle contractions. J Appl Physiol (1985). 2014 May 15. pii: jap.00080.2014. [Epub ahead of print] PMID: 24833782